住宅金融公庫の『ゆとり返済』がもたらした“罪”
今後の住宅ローンの選び方を考える上でも十分に参考となる、住宅金融公庫の低金利融資システム(ゆとり償還)と貸付限度額の引き上げ(八割超融資)が巻き起こした「罪」について、しっかりと検証しておく必要があると思います。
なぜなら、今となって振り返ればバカバカしく思える返済システムでも、実は、現状の民間金融機関が積極的に販売促進をしている2年、3年といった短期間の固定金利選択型住宅ローンが抱える返済リスクと同じような性格を持ったシステムのように思えるからです。
借入当初は極端に安い返済額で、家計への負担が軽いものの、ある一定期間を過ぎると、急に返済額が増えるというゆとり返済の仕組みは、金利が上昇気配にある時、短期間の固定金利選択型住宅ローンでも同じことが十分に予想されます。
まずは6ヶ月以上の延滞債権件数を見ると、平成8年時点で1万5千件程度でしたが、平成5年、6年に融資を利用した人(当初5年間を75年返済として設定)が、ゆとり返済期間を終えることになる平成11年、12年には、2万8千件、3万3千件と急激に増えています。
融資を申し込んだ頃はすでにバブルも崩壊していた頃ですから、決して右肩上がりの経済成長など期待できなかったはずなのに、このような現象が起きています。
また、破綻によって保証協会に返済の肩代わりをしてもらった件数も、平成8年で1万1千件だったのに対して平成11年、12年ではそれぞれ1万7千件、2万件とやはり急増しています。
次に住宅建設費等の8割までを融資限度額とする制度を一時的に廃止(八割超融資)した頃に融資を申し込んだ人のその後を見ると、平成17年1月時点で破綻した人の半数以上を占めています。
これらの数字から読み取れることは、返済期間中に起こる返済額の変化(金利の変動)や、少ない自己資金割合でのマイホーム購入が、ローン破綻の原因に大きく関係しているということが理解できます。
ゆとり返済を利用した人の延滞と破綻の状況

※住宅金融公庫より
| ゆとり@ | 借入当初5年間の返済額を75年返済として計算した返済方法 |
|---|---|
| ゆとりA | 借入当初5年間の返済額を50年返済として計算した返済方法 |
マイホーム購入と自己破産
90年代から、個人破産の件数は急激に増加してきました。
それまでは年間1万件程度だった自己破産件数が、昭和67年の時点で4万件に達すると、その後の伸び率は急激に加速し、平成10年に10万件を突破、平成15年には24万件を記録しています。
もちろん、これらの数字はあくまでも事件として扱われた件数ですから、自己破産予備軍を含めれば、その数はさらに増えることが予想できます。
ところが、こうした実情とは裏腹に、自己破産の実情について詳しく調べたものはあまりありません。せいぜい日本弁護士連絡会・消費者問題対策委員会が行ってきた調査記録程度ですが、この中で注目したい部分がありました。それは、平成14年に作成された破産理由です。
生活苦・低所得、事業資金、負債の返済(第三者の保証人)、病気・医療費の順で、次が住宅購入とありました。
つまり住宅ローンです。
それまではさほど大きな破産理由としては見受けられなかったのに、この頃から住宅購入を基因とする自己破産が顕著に現れてきているのです。
さらに注目すべきデータがあります。早稲田大学消費者金融サービス研究所の調査によるものですが、住宅ローンを抱えている人とそうでない人の多重債務に関する内訳です。
住宅ローンを抱えている人のほうが多重債務額が極端に大きいのです。これは、マイホームを守るために借金を重ねた結果なのかもしれません。
この調査からは、個人のライフイベントの変化(減収など)によって破産に至る可能性を指摘していますが、一般的に35年間という長期債務を強いられる住宅ローンを無事に完済する上で、自分の場合はどうなのか?という問いかけを真剣に行う必要があるように思います。
自己破産件数の推移

※最高裁判所「司法統計年報」より
住宅ローンと多重債務の関係
| 債務額内訳 | 住宅ローンなしの世帯 | 住宅ローンありの世帯 |
|---|---|---|
| クレジット・信販 | 147.5万円 | 248.6万円 |
| 消費者金融 | 266.4万円 | 378.7万円 |
| その他借入 | 69.6万円 | 364.7万円 |
| 合計 | 483.5万円 | 992万円 |
※住宅ローンありの世帯では、住宅ローン以外の借金額
※早稲田大学消費者金融サービス研究所の調査より
「自分は大丈夫」と誰もが思っている
住宅ローンがもたらした悲劇について見てきましたが、こうした内容を見たところで「自分には関係のない話だ!」と思った人もたくさんいるでしょう。
そう、誰もがこうしたデータを見ても、それを「明日の我が身」に置き換えては考えないものです。
では、実際にマイホームを購入してから破綻した人たちは、この本を手にしたあなたと違って、特別な人たちだったのでしょうか?
答えはもちろんノーです。
ただ幸せになりたくて、豊かな暮らしにあこがれてマイホームを手に入れ、そこでの生活をそれぞれの人が持つ「お金の基準」の中で送っていただけなのです。
しかし、このお金の基準は案外もろいもので、外的変化の影響に耐えるだけの力を持っていません。
そのため、ほんの少しだけ生活環境が変化すると今までの生活スタイルは崩壊し始め、その崩壊を食い止めようと債務を重ね多重債務者への一歩を踏み出すことになるのです。
最初から破綻することを前提に借金をする人はいないのです。

