賃貸人と賃借人の義務
貸主の義務
貸主は、その土地、建物を借主に@使用・収益させる義務(民法第601条)、A使用・収益するために必要な修繕義務(民法第606条)、B賃借人が必要費、有益費を支出した場合の費用償還義務(民法第608条)、を負っています。
借主の義務
借主は、貸主に対して@賃料の支払義務(民法第601条)、A賃借権の無断譲渡や無断転貸をしない義務(民法第612条第1項)、B賃借物に対する善良な管理者としての保管義務(民法第400条)、建物修繕等の通知義務(民法第615条)、契約終了後に原状回復した上での返還義務(民法第545条)を負っています。
造作買取請求権
賃借人が建物に付加した造作(エアコンなど)はすべて取り外し、家主へ返還するのが原則です。
ただし、
(1)賃貸人の同意がある
(2)賃貸人から買受けた
場合は、時価で賃貸人に買い取るよう賃借人は請求することができ、この請求に対して賃貸人は買取を拒否できません。(借地借家法第33条第1項)
なお、旧借家法では、この造作買取請求権を強行規定としていましたから、当事者の合意によっても排除することができません(旧借家法第5条、第6条)でしたが、借地借家法では任意規定とされたため、当事者の合意により特約で排除することが可能となりました。(借地借家法第37条)
費用償還請求権
必要費償還請求権
借主が土地や建物に対して、本来なら貸主の負担となるような「必要費」(たとえば屋根の修繕費など)を支出したときは、貸主に対して直ちにその費用の償還を請求することができます。(民法第608条第1項)
有益費償還請求権
借主が土地や建物に対して「有益費」を支出したとき、貸主は、賃貸借が終了した時点で、その価格の増加が認められる場合に限り、借主が支出した金額または増価額を償還することができます。(民法第196条第2項)
ただし、償還の有無については、貸主が決定することになります。(民法第608条第2項)
借賃増減請求権
約定された借賃(賃料)が、土地・建物に対する租税公課の増減や、土地・建物の価格の上昇、下落、あるいは経済事情の変動により不相当となった場合、その契約条件にかかわらず、当事者(貸主および借主)は将来にむかって建物の借賃の額の増減を請求することができます。(借地借家法第11条、第32条)
なお、増減額の請求をされた額が相当なものか否かで当事者間が争うような場合には、裁判所の判断に委ねることになります。
サブリース契約と借賃増減請求権の関係
賃貸経営をする上で、賃貸住宅の建設業者や不動産業者などが、オーナーから建物を一括で借り上げ、それを転貸するといったサブリースシステムがあります。
このシステムを使うと、オーナーは保証期間中一括で建物を業者へ貸していることになるため、空室リスクを回避できるといったメリットがあるため、実務では多く見られるものです。
実際、数十年に及ぶような長期家賃保証となれば、素人でも安心して賃貸経営をはじめることが出来ると錯覚してしまうため、この制度をアピールして賃貸住宅の建築を地主に迫ったりするケースもあるようですが、それが、同時にトラブルの火種にもなっていることは見逃せない事実です。
なぜなら、サブリース契約は借地借家法32条1項(借賃の増減請求の規定)が適用されるといった最高裁の判決(平成15年10月21日)が出ているように、例え「保証家賃の見直し条項」がなくても、管理業者は市場の状況によって契約期間中に保証家賃の減額請求をオーナー側にできるからなのです。
原状回復義務
借主は、建物の賃貸借契約の終了に伴う退去を行うとき、原状回復をさせてから貸主に建物を返還する義務を負っています。これを「原状回復義務」といいます。
この原状回復の範囲は、借主が建物の引渡しを受けた後に建物へ持ち込んだり、付設したものを撤去することと、借主の過失等により建物に損害を与えた部分の補修を行うことを指しています。
そして、これらの補修等にかかる費用は、借主が契約時に支払った敷金から清算されるのが一般的です。
一方で、畳や襖等の建具、壁、天井、床、浴室、トイレ、台所等の設備の経年・日焼けによる変色、損耗については、通常の使用により当然に生じるもの(これを「自然損耗」といいます)で、原状回復義務の範囲に含まれないため、これら自然損耗に対する補修費用は借主との間で特約の定めがない限り原則として貸主の負担となります。
しかしながら、実務においてはこの原状回復義務の性質や範囲を誤解している者も多く見受けられ、実際に原状回復義務と敷金の清算をめぐる紛争は後を絶ちません。
そこで、平成10年3月に建設省(現、国土交通省)は賃貸借契約の終了時における原状回復費用の負担のあり方に関するガイドラインを公表しました。
その後もトラブルが絶えないことなどから、平成16年2月に改訂版が公表され現在に至っています。
原状回復義務をめぐる判決
賃貸借契約終了の際における賃借人の原状回復義務の範囲は、特約のない限り、貸主負担であるとした上で、これと異な借主負担の特約を設けるとしても、少なくとも、借主が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、借主がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である。(平成17年12月16日最高裁判決)
東京都における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例
東京都では、賃貸住宅をめぐるトラブルを防止するため、賃貸住宅紛争防止条例(平成16年10月1日施行)制定し、「退去時の復旧と入居中の修繕における貸主と借主の費用負担」と、「実際の契約の中で借主の負担とされている具体的な内容」を明確にするためのガイドライン(賃貸住宅トラブル防止ガイドライン)を作成するとともに、宅建業者に宅建業法第35条の重要事項説明と併せて、その説明義務を課しています。
この条例は、東京都内にある居住用の賃貸住宅を、施行日以降、新たに宅建業者が代理若しくは媒介する契約に適用されます。(従前からの更新契約は除きます)
退去時の復旧に関する基本的な考え方
- 借主の責任によって生じた損耗や傷等を除き、経年変化などの自然損耗は貸主の負担で 復旧することを原則とする。
- 貸主と借主の合意があれば、原則と異なる特約を定めることができるが、その場合でも、 通常の原状回復義務を超えた負担を借主に課す特約は、すべてが認められるわけではなく、 内容によっては無効となる場合もある。
入居中の修繕に関する基本的な考え方
- 貸主には、借主がその住宅を使用し居住していく上で、必要となる修繕を行う義務があるものとする。
- 小規模な修繕については貸主の修繕義務を免除し、借主が自らの費用負担で修繕を行う ことができるという特約を定めることができるものとする。
宅建業者の説明義務
- 退去時の通常損耗等の復旧は、貸主が行うことが基本であること
- 入居期間中の必要な修繕は、貸主が行うことが基本であること
- 賃貸借契約の中で、貸主の負担としている具体的な事項
- 修繕及び維持管理等に関する連絡先
